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伝統技術が紡ぐ、家の記憶

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古民家のリノベーションにおいて、ときには家そのものを移動させる必要に迫られることがあります。そのような工法を「曳舞(ひきまい)」とか「曳家(ひきや)」といいます。



曳舞工事では、まず建物を基礎から切り離します。

その切り離した建物を、ジャッキを使って1.5〜2mほど持ち上げ、鉄道用のレールを敷いて、その上を少しずつ移動させます。

高低差の大きい場所を移動させるとなると難しい場合もありますが、敷地内であれば、何メートルでも自在に移動させることができます。

 

住宅のリノベーションにおいて曳舞工事を行うのは、おもに「基礎を強化したい」という目的がある場合。

現代の住宅に比べると古民家の基礎は造りが簡易的なので、将来に向けての安全性確保のため、リノベーションを機に基礎を造り直そうというわけです。



20年ほど前までは、永家舎でも頻繁に曳舞工事を行っていました。

当時は今よりも二世帯同居のお客さまが多く、親世帯と子世帯の二馬力で改修のための資金を出し合っていたため、高額な曳舞工事も計画に取り入れることができたのです。

しかし、今は祖父母が建てた古民家を譲り受け、孫世代が一馬力でリノベーションするケースがほとんど。

そのため、曳舞工事に予算をかけることが難しくなっているのが現状です。

 

もともと、古民家の基礎は今の基礎とはまったく構造が違うため、現代の基準には適合しないものの、安全性が極端に低いというわけではありません。

必要に応じて補修や補強をしながら、あとは暮らしの部分に焦点を当てて快適性を高めていく。それが、現代のリノベーションです。

 

永家舎の複合施設【さちの森】のちょうど真ん中にある、あずまやのようなコミュニケーション施設。
 


これは、もともとリノベーション展示場の門扉として使われていたものですが、複合施設の建築にあたり、曳舞工事によって数メートル北に移動させました。

規模としては大きくありませんが、昨今ではなかなか体験できない工事だっただけに、私たちにとっても貴重な機会となりました。

 

曳舞工事は、古民家の記憶を引き継ぎながら、新しい物語を紡ぐための技術です。

家を丸ごと持ち上げて移動させるという非日常的な光景の中に、古民家の可能性を切り拓く職人たちの熱意とこだわりを感じさせられますね。

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