古くからの町家には、必ずと言っていいほど格子が使われていました。表通りに面した住まいに格子を用いることは、“防犯対策”と“通風・採光の確保”という二つの実用性をあわせ持つ工夫だったのです。
外からの視線を遮りながら風を通し、強い日差しを和らげる。そんな先人の知恵が、格子によって街並みを形成していました。
見る人の視線を適度に遮りながら、空間に奥行きを持たせる格子の魅力は、現代のリノベーション現場にもそのまま活かすことができます。
今でも、玄関まわりに目隠し格子を使っている家は時折見かけますが、外部だけでなく建物内部においても、格子をうまく活用することで人の視線や光・風をうまく操ることができます。
たとえば、永家舎のリノベーション展示場では、和室を囲む間仕切りとして格子が使われています。
襖で完全に仕切ってしまうと、日の光が入らず陰気になりがちな和室でも、格子戸なら縁側の大きな窓から差し込む光を部屋の中までしっかりと取り込むことができ、なおかつ風も通すことができる。それでいて、部屋の外からの視線もほどよく遮ることができる。
そんな部屋の中と外の適度な距離感が、きっちり間仕切るのではなく「空間をゆるく仕切って、広く使う」という現代の考え方にもうまく融合しています。
こうした役割は、必ずしも格子に限ったものではありません。
『さちの森』ではミーティングルームをパーテーションで仕切る代わりに、組子を採用しています。格子と同様に光を通し、視線をさえぎりながら、かつ繊細な意匠で装飾的な要素を加えています。
目隠しと採光の両立といえばすりガラスや障子などがよく使われますが、格子や組子の「見えるようで見えない」距離感は、完全に視界を遮ってしまうすりガラスや障子では真似できない空間の奥行きを演出してくれます。
江戸時代の町家で、商家の防犯対策と通風・採光の確保という実用的な目的から生まれた格子は、時代とともに日本建築そのものを表現する意匠へと昇華していきました。
防犯という観点は、現代の住まいづくりにおいても非常に重要なテーマのひとつです。
(「“快適性”と“防犯性”の両立を考える」参照)
伝統的な意匠は、現代の暮らしに重たく感じることもあるかもしれませんが、むしろ格子の持つ機能性と装飾性は、こんな時代だからこそ新しい価値を見出せるのかもしれません。
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