古民家の屋根には、おもに切妻、寄棟、入母屋の3つの種類があります。
福井県内で目にする古民家は、そのほとんどが切妻か入母屋。あまり目にすることのない寄棟の古民家は、台風の多い地域や海の近くに多いといわれています。
屋根の形には流行がある、というお話を以前させていただきましたが、これは現代住宅に限ったことではなく、古民家も同じ。
(『
屋根を見れば、築年数がわかるという不思議』参照)
入母屋屋根とは、切妻と寄棟を組み合わせたような形状をした屋根のことで、技巧を凝らした複雑な形状、重厚な造り、城や寺社仏閣で多く使われていることからも、格調高い屋根形状とされてきたことがわかります。
そんな格式高い意匠を自宅の屋根に取り込むというのは、ある種の権力の象徴であり、ステータスとされた時代でもあったのでしょう。
しかし、現代では圧倒的に切妻屋根の家が多くなっています。
私たちはリノベーションが専門ですから入母屋の建物を見る機会も必然的に増えますが、新築であえて入母屋屋根を選択するという人はほぼいないのではないでしょうか。
時代を超えて、入母屋の家が減り、切妻の家が増えているのは、最終的にはシンプルで飽きのこないデザインが愛され続けることを証明しているようでもあります。
切妻屋根の、建物全体をスマートに見せる意匠性の高さ。
シンプルなものほど美しいというのは、建築に限らずすべてのデザインに通じる法則です。
さらに、切妻屋根のすっきりとした形状は、雨漏りしにくくメンテナンスをしやすいという機能性をも兼ね備えています。
建築の外装における機能性は地域性とも関連が深く、冒頭でお伝えした「台風の多い地域では寄棟の古民家が多い」というのも、そのひとつ。
1970〜1980年代には、セメントと砂を原料とするセメント瓦が広く普及しましたが、日本の気候風土に合わなかったため次第に姿を消していきました。
屋根は美しい形状と機能性を兼ね備えた、その家の象徴的な存在です。そして、そこには地域の風土と人々の営みが刻み込まれています。
屋根に限らず、住まいに求められるのは、流行に左右されない普遍的な価値。
日々、住宅の歴史を目にしている永家舎だからこそ、「普遍的な価値とは何なのか」を、広く、より多くの方に伝えていけるのではないかと考えています。