■お住まいデータ■
築年数:55年 施工面積:27.06坪 家族構成:夫婦(60代)、祖母
外観
今庄風の町家の趣をそのままに、リノベーションしたS様邸。
福井県伝統的民家の認定を受けている家も多く、宿場町の風情をつくり上げています。
街並みにとけ込むように建っている、S様夫婦の伝統的町家。
S様邸は一度、子どもの成長や夫妻の結婚・同居を契機に、正方形の町家をそのままに奥へ向かって増築したそうです。
増築部分にリビングやキッチンを設けたことで、家族の生活は増築部分のみとなりました。
「もともとあった四つ目の板の間はほとんど使っておらず、使い勝手の悪い家になってしまった。床などもかなり傷んできたので、建て替えた方がいいのかなと思っていました」と奥様はおっしゃいます。
それに異を唱えたのはご主人でした。
「全国の宿場町は明治に入り廃れてしまったところが多いけれど、ここ今庄は北陸線が通り、明治天皇もお泊りになった明治殿も残っている。
我が家は数年前に
“福井県伝統的民家認定”を受け、宿場町の顔のひとつでもあるのだから考え直そう」。
夫妻はこうして、格子の入り口や四つ目の板の間など今庄風の町家スタイルを残しながら、リノベーションを決意しました。
住まいだけではなく、“愛着”もリノベーション。
<After>
<Before>
玄関
玄関を開け、日差しをさえぎっていた階段を移動。
開放的な玄関空間に生まれ変わりました。
マツの床材や建具を磨き上げ、美しいたたずまいに。
夫妻のリノベーション計画は、
「四ツ目の板の間を有効利用し、暗かった室内を明るくする」
「夏暑く冬寒かった環境を変える」
「夫妻がくつろげ、孫を含めた子ども世帯が集える空間をつくる」ことでした。
玄関近くにあり、日差しをさえぎっていた階段を移動。
収納力のある脇玄関を備えた開放的な玄関空間を作り上げていきます。
湿気でかびが生えてしまい反ってしまったマツの床材も、磨き上げることできれいによみがえりました。
快適な住空間のために断熱材を入れ直し、玄関戸の隙間も修繕しました。
「“四つ目”の雰囲気を残しながら、普段使いができる客間をつくりました。すきま風で寒さが厳しかった玄関近くの空間も、これで活用できますね」とご主人は話します。
多目的空間
玄関とつながる四つ目の一間は、客間などに活用できる多目的空間。
格子越しに町並みを眺める、心地よい場所です。
夫妻や実家に遊びに来た子世帯が集うLDKも、開口部をふさいでいた浴室などの水まわりを移動させることで、対面キッチンを中心にした明るい空間に生まれ変わりました。
四つ目の一部を水まわりとしたことで、生活動線も快適です。
LDK
対面式のキッチンを中心に、夫妻や訪れる子世帯がくつろげるLDKをつくりました。
「断熱性を強化することで、こんなに快適になるなんて」と夫妻は言います。
写真右の勝手口からは庭へとつながります。
取材を続けていると、お孫さんが玄関で柱上りの遊びをしていました。
「廊下幅が80センチぐらいなので、子どもは上りやすいのでしょう。今の住宅ではこんな遊びはできませんよね。そういえば私も子どものころ、この柱でよく遊んでいましたね」と奥様。
家への愛着も、リノベーションでよみがえるのです。